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俳句集

2015年11月の句

選者 桐本石見

寄鍋の湯気の向こふに母の顔

コバ

寄鍋は鶏、魚、貝、蒲鉾など各種の具を入れるのでこの名があり、煮ながら食べる。家族が揃い鍋の湯気の向いに母がご飯などよそう顔がゆらぐ。子供にも心安らぐ一時で家族団欒の懐かしい句です。

ラブラブの熱々お鍋してみたき

ギン

昨今の調査で結婚願望の低下が問題視されていますが、本来大自然の法則によれば男女は恋をし結婚し子を生して世代を繋ぐべきと思います。そんな理屈抜きで恋人と向い合いの鍋は楽しく美味しい。私も昔が懐かしい句です。

鍋なんて囲む家族の今は無し

シマ

冬には鍋を囲み湯気の中での食事が日本の古来の姿で囲炉裏など懐かしい、祖父、父母、子供等が居て家族と言える。ことに鍋物は恋人と二人か、家族や友人とが楽しく賑やかである。老いの身に冬を迎えて寂寥の句です。

寄鍋に家族の笑顔揃ひたる

レイ

 「子がかへり一寒燈の座が満ちぬ」加藤楸邨がありますが、冬の寒い夕べに子や夫が帰宅して鍋の周りに家族が揃うのは料理をして待つ母にとっても嬉しい、今夜は寄鍋かと笑顔がこぼれる。賑やかな家族を彷彿する句で明るい。

母の情ことに籠りて季節鍋

シズ

季節鍋は「冬の鍋の季節になった」の意で俳句では冬の季語。個別には鍋の具の主なる名で牛鍋、牡丹鍋、地名の石狩鍋などがあります。その鍋も母の丹精の心の籠る味で熱さも又嬉しい。昔は貧の具でも母の味は忘れ難い思いの句です。

牡丹鍋頭寄せ合ふ姉妹かな

あべ

 昔の人は木や花にもまた地名などにも趣きのある名を付けましたが、猪に牡丹、鹿に紅葉、馬に桜鍋など付けました。獅子が牡丹に戯れる石橋の舞いの連想からとも。姉妹の女性に牡丹鍋も相応しく艶冶の句です。

闇汁に恐る恐るの箸を出す

ヒロ

闇汁は仲間が皆には内諸で具を持ち寄り席上の鍋に入れて煮えるの待って食べるが、思い掛けない具を摑むので箸を出すのも恐いがそこが面白く話題になる。昔に会社で一度行ったので懐かしい句です。

あんこう鍋年に一度と振る舞ひぬ

オノ

鮟鱇は大洗以北が有名で冬の時期の鍋料理。七つ道具などと言い全てが食べられる。江戸時代は三鳥二魚と言い、鯛と鮟鱇が珍味であったとも。一式の鮟鱇料理は高価だが、年に一度は家族へのサービスと振舞う。心の和む句です。

寄鍋や蓋を開けてのお楽しみ

ミク

 鍋は具の名を冠したのが一般的ですが、寄鍋は地方により特色があり、またその時の市場などに多く取れた魚など入れるので蓋を開けるまでお客には解らない、それもまた楽しみの一つ。家庭でも母だけが知っている。楽しい句です。

大所帯二つ流儀の鍋奉行

ユタカ

会社などでも大勢だと鍋が複数になり、具は同じでも味の付け方や煮る順をとやかく言う人がいる。家でも男や子、女性などで何かともめるがそれも大家族の証。老夫婦二人より賑やかで良いかも知れません。面白い句です。

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