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俳句集

2019年9月の句

立秋

選者 桐本石見

朝夕の過ごし易さよ今日の秋

ヒロ

今日の秋は立秋のことで、いよいよ暦の上でも秋になる感慨の言葉。近年は暑さも厳しく豪雨も多く何かと疲れるが、立秋と言う朝夕の風にも心安らぐ。「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」(藤原敏行)を思う句です。

コスモスに心の和む潮来道

オノ

コスモスはメキシコ原産で明治の初め渡来した。秋桜とも言い、ギリシャ語で美しい調和の意味や、哲学では宇宙も表わす。山口百恵さんの秋桜(コスモス)の歌で流行もした。水郷潮来の水に映るコスモスもまた美しく、少しのロマンも思う句です。

賑わひの海や川にも秋近し

レモン

日本は海に囲まれて海水浴場も多く夏は賑わうし、帰省して故郷の川遊びもまた楽しい。しかし盆を過ぎると、田舎の浜辺や川は地元の子供たちだけになり寂しくなり、秋の近くなるのを思う。都会に近い海ではまだ賑わうが、秋風と共に少なくなり、青いうねりにサーファーが二、三人居るのも秋を思う句です。

流れゆく雲を見て居る初秋かな

あべ

夏の雲は積乱雲で入道雲だが、秋はカーテンの様な薄い雲や鱗雲が多い。浜辺か、堤防に座りゆっくりと流れる雲をただ眺める。故郷や過ぎた月日を思うこともある、少しの寂寥(せきりょう)にしみじみした句です。

立秋の蝉も蛙も声変わり

コバ

夏は油蝉、みんみん蝉など喧(やかま)しいが、秋になると法師蝉、蜩(ひぐらし)など鳴いて秋を思う。また蛙は気温が二十度以下になると鳴かないと言うが、立秋の頃はまだ少し鳴く。それらの声の変わりにも秋のきたの思う、面白い句です。

ななかまど色づき初むる今朝の庭

マキ

七竈(ななかまど)は七度燃やしても燃え尽きないので、この名があると言われる。信濃など亜高山帯に多く、秋には紅葉が燃える様に美しいが、植木鉢などにも植えられる。美しい句。また最上級の備長炭の原木にもなり、花鍬樹(ななかまど)とも言う。

我が庭もまばゆき程の秋の星

みく

星は年中見られて夫々に美しいが、秋から冬は空気が澄むので格別に輝き美しい。日本一は長野県阿智村(あちむら)で観光客も多い。しかし自分の庭の星も自分だけの星に思えて、少しのロマンも思う句です。

終戦忌父の遺影のセピア色

ゆたか

セピア色は烏賊(いか=魚類)の墨のことで、昔はインクにも使われたと言う。今では白黒写真の褪せたのも言い、過ぎた日のロマンにも言う。戦後七十余年の今、色褪せた写真に亡父を懐かしむ。しみじみした句で私も亡父を思います。

秋立つや浪が浪追ふ鹿島灘

ゆたか

盆が過ぎるとどこの海もうねりが出て、海岸近くになると崩れて飛沫を広げる。それは太平洋に台風など発生しやすいからでもある。日々の生活は多忙だが、時には鹿島灘の幾重の浪をただ眺めるのも心安らぐ。大景の句です。

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