2019年5月の句
つつじ
袋田の滝の奥なる山つつじ
みく
袋田の滝は茨城県大子町にあり、高さ百二十、幅七十三メートルで、凍結も名高く日本三名瀑の一つ。昔に西行法師が四季に尋ねて、この滝の趣が味わえると言われたので四度の滝とも言う。滝の吊橋の奥はハイキングコースで、月居山、光明寺観音堂、生瀬滝などあり、白い瀑布を見て赤い山躑躅(やまつつじ)の道も楽しい旅の句です。
通学路つつじの蜜吸ひみな笑顔
めい
いまでは少ないが戦後の頃つつじの花を採って蜜を吸った、それが下校時の楽しみの一つで、それほど菓子など無い貧窮の時代でもあった。だだし、蓮華つつじや黄色のつつじは毒があるので要注意。他にも、椿、百合なども蜜がある、子の日が懐かしい句です。
網走の獄を赦され白躑躅
ゆたか
網走刑務所は明治二十三年頃に開設され、千三百余名が服役し北海道開発など苦役にも従事した。映画の網走番外地や幾多の脱獄でも名高い。今では近代化されたが、昔は恐怖の獄舎でもあった。何かの刑を終えたのか、網走川の空も晴れて白の躑躅の様に心も清々しい思いの句です。
つつじ咲く卜伝公園ウオーキング
ヒロ
卜伝公園は鹿島サッカースタジアムの近くにある多目的運動公園で、躑躅の咲く頃の散歩も清々しい。また塚原卜伝は一四八九年鹿島四家老の一人吉川覚賢の次男として生れ、八十三歳で歿。その間足利将軍家や山本勘助に指南したとも、宮本武蔵との鍋蓋受けも名高い。墓は鹿嶋市沼尾にある。その歴史をも偲ぶ散歩の句。
見渡せば眼下につつじ筑波山
アベ
筑波山は標高八七七メートルの男体女体山かなる関東の名山で、古来から歌会の山としても名高い。躑躅は三千株もあると言われ、ケーブルカーで昇る途中の眼下の躑躅も美しい旅の句です。
沿道の柵にこぼるるつつじかな
マコ
家の近くか或いは旅の道か、その道の柵を溢れるほど躑躅が咲いて美しい。躑躅は山にも咲くが公園や沿道にも柵の代りにも植えられる。躑躅は山躑躅、杜鵑花(さつき)、シャクナゲ、馬酔木(あしび)も同じ仲間で、赤や白など千四種もあると言われる。簡素ながら実景の句です。
笠間路の晴や躑躅の咲き競ふ
オノ
笠間市は陶器や笠間稲荷も名高いが、八千五百株の躑躅も名高く山の斜面に咲くのは荘厳な景でもあります。因みに五十年前一株運動から始まったとも。私も何度か尋ねて懐かしい句です。
五月空昭和も旧き世となりぬ
ゆたか
五月一日年号は令和になった、万葉集の梅の歌三十二首の序文の「初春の令月にして気淑(よ)く風和(やわら)ぎ…」からと言う。平成の時は昭和も隣りの思いだが、年号を重ねると昭和も古くなった思いがします。人夫々にその時代に生きた感慨を偲びながら次の時代に思いをはせる、五月の晴天も広々と令和に相応しい句です。
愛を説く獄舎の碑文赤躑躅
ゆたか
網走刑務所に「私の手は厳しいけれど私の心は愛に満ちている」の碑文がある。これはオランダ・アムステルダム刑務所の門扉にある文を和訳したのだと言う。厳しく罪は償って貰うが、心に愛をもって指導する意味だと言う。スポーツや仕事でも厳しいと問題にもなりますが、真に愛情からなら耐え励みにもなります。赤い躑躅も情熱の思いの句です。