2018年11月の句
紅葉
紅葉狩り見上ぐる先は筑波山
みく
筑波山は関東の名山で標高八七十メートル、古くから歌垣の山としても名高く、春の梅、桜も美しい。この詠はその筑波山への途次でどの道だろうか、石岡市、土浦市、笠間市(岩間地区)などの道がある、車窓から仰ぐ山も晴れて紅葉狩りに心の弾む句で、帰途の柿や蜜柑狩りも楽しい。
袋田の滝を彩る紅葉かな
ひろ
袋田の滝は茨城県大子町にあり、華厳の滝、那智の滝と共に日本三名瀑の一つ。昔に西行法師が尋ねてこの滝は春夏秋冬の四度見なければ良さが分からない、と称えたと言われる。滝は四度に落ち冬の凍結も美しい。瀑布の白と紅葉の色合いもまた美しい旅の句です。
古里へ贈る苗木も紅葉なす
アベ
この茨城、千葉は苗木の育成の盛んな所で、珍しい花や果物の苗がある。また秋は苗木の植え付けや株分けに良い時期でもある。里には無い苗木を見つけたのか、何かの記念の贈呈用の苗かも。柿、栗、桜、梅、など広葉樹はみな苗でも紅葉になる。里の紅葉山も懐かしむ句です。
楓の木桧林に紅一点
くそじじ
一般に紅葉は楓のことを言い、黄色から紅色になるのは美しく、他の木の紅葉の代表でもある。他にも雑木や欅(けやき)、柏などあるが、それは別な趣があります。桧林の中の一本の楓の紅葉は格別に目立ち美しい。
山紅葉道の休みにとろろ蕎麦
くみ
紅葉狩りに行くと大方は休み処や土産物屋があり、紅葉饅頭と蕎麦がある。それらを食べながら紅葉の風情に浸るのも旅で、一句も詠みたい思いになります。
いろは坂見頃迎えし紅葉かな
ひろ
日光のいろは坂は奈良時代に男体山の山岳信仰の道として開かれ、大正時代に中禅寺湖湖畔に大使館の別荘が建てられて交通も頻繁になり整備された、曲りがいろはの四十八あるとして、この名がある。昭和四十年に第二いろは坂も開通した。紅葉の頃は渋滞もするが、眺めは美しい旅の句です。
孫の手は紅葉みたいや可愛いね
コバ
昔から赤子の手の可愛らしさを紅葉の様な手と言う。紅葉は本来、文字の様に秋の紅い葉のことであるが、楓が一番赤くなり葉の形も子の手に似ているのでこの呼称になった。楓(かえで)の様な手が正しい。そう言う理屈は抜きにして児の手の薄紅は可愛い実感の句です。
山紅葉入りて染まれよこの身まで
しま
紅葉にも楓、楢(なら)、櫟(くぬぎ)、桜、山毛欅(ぶな)などありますが、楓が一番赤く美しく、晴天の日は燃える様でもあります。その山路を行くと我が身も赤々と染まりたい思いになります。少しのメルヘンを誘う句です。
古宿や月も紅葉も新なり
ゆたか
旅の宿は新しく綺麗なのも良いが、山国の古い手入れの良い宿も趣があります。木造で床なども磨かれ、女将の上品なもてなしには心も温まる。それに途中の道や山の紅葉は毎年新しく夕月も美しい。実感の旅の句です。