2022年04月の句
蓬餅
故郷や下校途中の蓬餅
まこ
作者の古郷は何処だろうか。私も通学の途次に親戚があり、時々寄り道をして菓子など貰ったり五円のパンを買ったりしたが、徒歩や自転車の通学も楽しい思い出だし、道草も四季の山河も彷彿して懐かしい句。
酒断って父の墓前に蓬餅
シゲ
酒は紀元前八千五百年頃メソポタミアで造られ、日本では稲作の始まる弥生時代とも言われる。以来酒は百薬の長とも気違い水とも言われる。八岐大蛇(やまたのおろち)は八塩折酒(やしおおりのさけ=何度も繰り返して醸成された酒)で討たれたが、現代でも酒による事故は多い。墓前に蓬餅を供え断酒を誓う切々の句。回復を祈りたい。
草餅におしゃべり弾む婦人会
ナッチャン
蓬餅は草餅とも言う。婦人会で作ったのか、土産かも、食べながら話も賑やか。女三人寄れば姦(かしま)しいとも言うが、蓬餅の緑も春の日に相応しく明るい句。因みに蓬餅は九世紀頃中国から伝来し、母子草を搗(つ)き込んだという。
利根沿いの新芽摘みたる蓬餅
オノ
草餅とも言い、中国から伝来した頃は母子草を搗き込んだが、母子を搗くのを忌み、薬草で何処にもあり繁茂の強い蓬になったという。緑の色も香りも春に相応しい。坂東太郎と言う利根川辺りに蓬を摘むのも大景の明るい句。
出来立てのほんのり温むよもぎ餅
めい
餅は焼いても美味いが、搗き立ての蓬餅は色も仄(ほの)かな蓬の香りも野趣があり、如何にも田舎を思う。柔らかさや温もりに祖母や母を懐かしむ実感の句。
鹿島宮鹿を眺めつ蓬餅
ヒロ
鹿島神宮の鹿は天照大神(あまてらすおおみかみ)の使者で、祭神の武甕槌大神(たけみかづちのおおかみ)に出雲国の大国主命(おおくにぬしのみこと)へ国譲りに行く命を届けられた古事から、今も神鹿(しんろく)として飼われる。蓬餅を食べながらその神代を偲ぶ句。
俺搗くよ妹は丸めよ蓬餅
エイちゃん
餅は稲作の弥生時代から始まり、稲霊(いなだま)や神器の鏡から鏡餅などして神に供える。また餅搗きは搗き方と手水方の掛け合いの間合いも大事で、夫婦の和合にも例える。ユニークで明るくリズムも良い一句。
小包に母の手紙や蓬餅
ラク
垂乳根の便りに届く蓬餅
イッサ
垂乳根(たらちね)は古語で父母や母、故郷から蓬餅の荷に添えて手紙もある。老いてたどたどしい文字かも。歌謡の北国の春を思う句で、私も故郷や父母など懐かしい。
神仏に先ずは供えり蓬餅
シゲ
今でも農家などでは、その年に採れた初物は神仏に供えて感謝と豊穣を祈願する。作今は物が多く粗末にし勝ちだが、こうした物への心遣いは大事にしたい実感の句。