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俳句集

2019年7月の句

選者 桐本石見

蛍火の一つ希望の灯としたる

くま

今ではあまり見れなくなった蛍だが、まだこの鹿島潮来では少し山辺に行くと見れる。また人間は古来から太陽や月、遠くの灯火も希望の支えにして来た。今は苦しい自分だが、蛍の一つの光にも明日への望みを思う。切々の句で、遠くの灯台の灯も彷彿します。

命日の小窓に来る蛍かな

何方の命日だろうか。蛍からは母とか女性の縁者を想いますが、家でも法要などしたのだろうか。それらも済んで少し夜も静かになった頃、ふと見ると窓に蛍が一つ来ている。よく死者の魂とも言いますが、肉親の命日であれば在りし日の姿も想い懐かしい。また地震や津波の被災を思えば切ない。しみじみした句です。

水音の清きなりけり蛍狩り

ゆたか

日本には四十種の蛍がいると言われ、多く見るのが川の中流に棲む源氏蛍、水田に棲む平家蛍。何れも田舎の夏の風物詩でもあった。この鹿島神栖では音の聞こえる小川も無いが、私の故郷島根では川と言えば瀬音やセセラギが聞こえた。蛍も美しいが水音の聞こえる川も懐かしい句です。

雨後に君思い出す蛍かな

アオ

夏の雨の後は少し蒸し熱く薄靄(うすもや)も漂うが都会ではネオンなど濡れて美しい。蛍の飛ぶ田舎でも少しの艶冶(えんや)を思い、昔に恋した女性を懐かしく思い出す。若き日の切々の句。

大都会蛍代りの流れ星

モト

大都会は東京や大阪を思いますが、今では特別に蛍狩でもして運ばないと見れないかも。流星も都会の燈で見難いが、それでも時には見れるかも。現代を思う句です。

幼な日の恋浮き消ゆる蛍の火

ヨイチ

昔は近くの川辺でも蛍が見れたので、近所の子達と蛍狩りをした。その中に好きな子がいて片思いでもした思い出かもしれない。蛍火を眺めているとその子の俤(おもかげ)も浮び消える、少しの艶冶と儚(はかな)さを思う句です。

蛍狩り今宵どこまで神の道

オノ

神の道は鹿嶋市の名所古跡を辿るハイキングコースで約十五キロの道程。その中に蛍の里、剣聖の里、鹿島神宮、鹿島城址、などある。その蛍の里を尋ねて夜道を歩いたのだ。「蜻蛉(とんぼ)釣り今日は何処まで行ったやら」(加賀千代女)を思う句ですし、また夜道は少しのロマンもあります。

初蛍あそこあそこと五歳の子

あべ

初蛍はその年に始めて見る蛍で、いよいよ夏になった思いにもなる。田舎などに行って子供が見付けて母などに告げる、微笑ましい実感の句です。

蛍火や平家源氏もいま睦む

シゲ

平安時代源頼政が平家打倒を企てたが、陰謀が露見し宇治平等院で討たれた。その亡霊に因んでこの名があると謂れ、その後源氏が鎌倉幕府を開いたので、大きいのが源氏、小さいのが平家蛍と伝えられる。その後源氏も滅び時代を経た今は夜空に仲良く飛び交う。哀れと歴史を思う句です。

蚊帳内の幼なの頃の蛍かな

ゆたか

今では田舎でも蚊帳は少ないが、子供の頃は外よりも蚊帳の中が何か楽しい時もあった。蛍も多くいて、何匹か放つと又別な美しさに魅了された。その故郷も蛍も今は遠くに懐かしむ句です。

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