2018年6月の句
花菖蒲
亡き妻の香りあるごと花菖蒲
あお
花には菊や薔薇、梔子(くちなし)、柚子などの様に香りのある物と美しいが匂わない物があり、花菖蒲や燕子花(かきつばた)も紫で艶冶ですが匂わない。しかし「紫草のにほへる妹を憎くあらば人妻ゆえに我恋ひめやも」(大海人皇子)の歌の様に紫は高貴の方の衣服で紫匂うとも形容します。花菖蒲に生前の妻の匂いを思う切愛の句です。
遠き日の母の着物のあやめかな
しま
女性の着物柄は四季に連れて、水仙、椿、桜、アヤメ、菊撫子など、また友禅や紬、浴衣など夫々に美しい。あやめは少し大人の艶冶(えんや)を思わせる。綺麗な母であったのかも、その母を懐かしく偲ぶ句です。
艪の音のやがて水尾曳く花菖蒲
ゆたか
潮来は昔十六島とも言われる洲に家や田畑が点在し、その間をサッパ舟で行き来した。昭和三十年頃、美空ひばりの歌などの宣伝効果で娘船頭さんが人気になり、アヤメ園などが整備され十二橋などと共に観光化した。前川に艪の音が聞こえゆく舟の水尾も広がってくる、嫁入り舟かも。水に映る花菖蒲も水尾にゆれて美しい句です。
朝靄に花びら濡るるあやめかな
ひろ
この水郷潮来は利根川や北浦、霞ヶ浦の関係で靄(もや)の日が多い。その潮来の朝靄に濡れた花あやめはしっとりして艶冶でもある。花は晴れも曇りも雨も夫々に美しいが、靄にかすむのもまた美しい。
花あやめ水のゆくえの明りかな
ユーミン
利根川を始め水郷潮来の水路では水の流れを見るのは難しい、それだけ広大な平野でもある。しかし潮の干満時には場所によって流れが見える、アヤメの映る潮来前川の流れも又晴れて明るく美しい句です。
川風に紫ゆるるあやめかな
タノ
「潮来出島の真菰の中にあやめ咲くとはしおらしや」と水戸光圀公が詠われた頃から潮来のあやめは有名になったと伝わる。出島は今の潮来駅辺りで、真菰(まこも)の中にあやめが咲いていたのか。川風に揺れるあやめや菖蒲も美しい句です。
小田原や菖蒲の色と海の紺
くそじじ
小田原城本丸東堀には七千株の菖蒲園があり、六月には紫陽花(あじさい)祭に合わせ菖蒲祭もある。花菖蒲の紫も美しいが、天主から眺める海の沖の紺もまた美しい。六月は梅雨で曇りがちだが、晴間の小田原の海も夏来る思いの旅の句です。
かの人を偲ぶやあやめ濃むらさき
あべ
あやめは何故アヤメと名付けられたのかは明確ではなく、花に文目があるからとも、また奈良時代に中国の渡来女性をあやめと称したからとも。何れにせよ、なよなよした紫の花びらは女性を想う。昔の恋人かも、また万葉の恋歌も思う句です。
花あやめ潮来娘の手漕ぎ舟
みく
潮来前川や十二橋のサッパ舟は昔は生活用であったが、昭和三十年頃から観光用にもなって娘船頭で人気があったが、今では笠に頬被りの叔母さんが多い。昔を偲ぶ句です。