2018年3月の句
梅
卓に置く梅一輪の香りかな
あべ
梅は早春の百花に魁て咲く気品のある花。平安時代に中国から伝わり花を愛でた。服部嵐雪の「梅一輪一輪ほどの暖かさ」を思いますが、偕楽園など多くの木ごとの花を愛でるのも趣があります。簡素で実感の句です。
嬉しさと寂しさ思ふ梅の花
あお
梅は早くは寒中から咲くので、その気概に勇気を貰う思いになります。また他の桃、桜、チューリップなどもその花の特徴に合った可憐さなどで和みますが、反面に寂しさや哀れや歴史を思うのも花です。梅には菅原道真、桜は城の戦など、また朝の花は勇気を、夕べの花は少し寂しいのも人の心です。
老木の生きたる証梅一輪
ゆたか
日本で確認された梅の樹齢は四百年ぐらいで、伊達政宗が朝鮮から持ち帰った木と言われる。また、「東風吹かば匂ひよこせよ梅の花主なきとて春な忘れそ」で名高い北天満宮の梅は、樹齢約三百五十年で接ぎ木で今に伝えられたとも言われる。老木は臥龍梅の形になるが、少しずつ咲く花も気概がある。人間の老いにも思いを重ねた句です。
コート脱ぎ小道を行くや梅の花
しま
花は公園の花壇や桜並木の様に多く咲くのも美しいが、咲き始めの一輪や葉隠れの一つも可憐で美しい。また花には女性を連想して多くの歌謡や和歌が詠われる。それらを思う艶冶を秘めた句です。
晴天や梅の花咲く小庭かな
くま
探梅と言って早咲きの梅を見に行くのや梅林を訪ねるのもありますが、小庭に咲く梅も質素で美しい。梅は鎌倉時代から食用にもなったが、桜より多く詩歌に詠われた。
紅梅や娘の姿ほんのりと
こば
花は、大方は女性に例えられるが、紅梅もまた娘を思う。ことに蕾の頃は可愛いし、朝靄の中で見る紅梅は艶冶でもある。「象潟や雨に西施が合歓の花」芭蕉の句なども思います。
梅林のおちこち聞こゆ鳥の声
ひろ
この近くの梅林は偕楽園が名高いが、千葉県香取市の阿玉台(あたまだい)貝塚などは人が少なく、天気の良い日は小鳥の囀りなども聞こえて楽しい。梅に鴬と言われるが、雀の声も可憐です。
幼な日に梅の花見し偕楽園
アッチャン
偕楽園は水戸藩主九代徳川斉昭により一八四二年頃に造園され、約三百町歩の広さで梅も今では三千本もあり、千波湖や好文亭なども名高い。私も何度か尋ねて懐かしい句です。
梅香る夢にも香る伊豆の旅
びーと
伊豆は暖かいので梅や椿の野生種も早咲きするし、熱海の梅園などは日本一早く咲くので名高い。昼に梅園を見て夜の夢にもその香りを思う。また河津桜や天城越えも見所。「伊豆は山中乙女の声の藪椿」が私にも懐かしい。